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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2512号 判決 1968年2月28日

東京都中央区銀座六丁目四番地交詢ビル二〇六号室

日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は

坂本又一郎こと坂本又一破産管財人

控訴人

野間彦蔵

東京都中央区新富町三丁目三番地

被控訴人

京橋税務署長

黒沢次郎

右指定代理人法務省訟務局局付検事

福永政彦

法務事務官 長谷川謙二

大蔵事務官 青木茂雄

今田叶

国税訟務官 泉水一

右当事者間の源泉徴収所得賦課処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は、昭和四二年一一月二二日終結した口頭弁論に基づき、左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中主文第二項を取消す。被控訴人京橋税務署長が昭和三三年九月三〇日破産者日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎こと坂本又一に対してなした匿名組合契約等に基づく利益の分配金に対する源泉徴収所得税合計額五八七、七七一円及び同加算税合計額一四六、七五〇円の賦課処分は無効であることを確認する。もし右請求が理由がないときは右賦課処分を取消す。)」との判決を求め、被控訴人指定代理人らは、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張の要旨は、次に記載する外は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決第五枚目裏四行目に「(二)(1)」とあるのは、「(二)」の誤記と認めるから、これをそのように訂正する。)。

控訴人は、次のように述べた。

一、被控訴人主張の後記一の主張の訂正に異議はない。

二、同二の主張事実は争う。

別件賦課処分は、被控訴人署長以外の他の税務署長がした賦課処分のうちで、その納税告知書が送達されなかったものについて、改めて被控訴人署長がその賦課処分をしたものであるから、本件賦課処分とは二重の賦課処分にならないとする被控訴人の主張は失当である。仮に右主張のごとき事実関係があって、別件賦課処分が本件賦課処分と二重の賦課処分にはならないとしても、別件賦課処分は、被控訴人署長以外の他の税務署長がした賦課処分との関係において、同一の課税物件に対し二重になされた賦課処分であるといわなければならない。すなわち、行政処分はいったん成立すれば、それが処分の相手方に通知されなくても、処分庁又はその上級官庁によって取消されない限り、他の行政庁はこれに拘束されるものと解さなければならない。被控訴人署長以外の他の税務署長が、被控訴人主張の課税物件に対し源泉徴収所得税の徴収決定をしたが、その徴収決定通知書が送達されなかったというのであれば、処分庁である当該税務署長が改めてこれを送達すべきであって、処分庁でも上級官庁でもない被控訴人署長が、同等の他の税務署長の賦課処分を無視して、これと同一の課税物件に対してした別件賦課処分は、被控訴人署長以外の他の税務署長がした賦課処分と二重の賦課処分である。従って、別件賦課処分は、この点からいっても、無効又は取消されるべきものである。

三、別件賦課処分の基礎となる配当金支払額は、被控訴人の主張するところによっても、結局被控訴人署長以外の他の税務署長が査定のうえ課税対象として把握したものであるというに過ぎず、その算定の根拠は全く不明である。配当金の支払を受けた出資者ごとにその支払額が特定されるのでなければ、これに対する源泉徴収所得税を賦課することは、そもそもできないものといわなければならない。従って、被控訴人主張のごとき、その内容を個別的に特定することもできず、算定の根拠も不明な各月ごとの配当金支払合算額をもって、直ちに、課税処分の対象とした別件賦課処分は、当然無効である。

被控訴人指定代理人らは、次のように述べた。

一、原判決の事実第三の三の(三)の冒頭において、別件賦課処分の対象となる配当金の支払時期につき「昭和二九年九月から同年一一月まで」と主張したのは(原判決第一九枚目表終りから第三行目及び第二行目)、「昭和二八年九月から同年一一まで」の誤りであるから、これをそのように訂正する。

二、控訴人は、別件賦課処分は本件賦課処分と二重の賦課処分であると主張するけれども、右主張は当らない。すなわち、

(1)  被控訴人が調査の結果確認したところによれば、破産者日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎こと坂本又一の全国各店(本店、総支店及び支店)が昭和二八年八月から同年一二月までの各月に、その出資者に対して支払った分配金の総額は、本判決添付別紙第一表の「分配金支払総額」欄に記載の金額であった。

(2)  ところで、匿名組合契約等に基づく利益の分配に対して源泉徴収所得税を課することとした昭和二八年法律第一七三号「所得税法の一部を改正する法律」は、昭和二八年八月七日から施行されたので、右(1)に掲げる金額のうち前記調査によって判明した同年八月一日から同月六日までの分配金支配額、すなわち第一表の「法律施行前の分配金支払額」欄記載の支払額は、源泉徴収所得税の課税対象とならないものであった。

(3)  また、右(1)に掲げる金額のうち、破産者の本店が同年八月から同年一〇月までの各月に支払った第一表の「本店納付済の分配金支払額」欄記載の分配金支払額については、同本店が既に本件賦課処分前に、これに対する所得税を源泉徴収したうえ、所轄京橋税務署長に対して自主的に納付していた。

(4)  同様に、右(1)に掲げる金額のうち、破産者の関東総支店が同年八月及び九月の各月に支払った第一表の「関東総支店納付済の分配金支払額」欄記載の分配金支払額については、同総支店が、既にこれに対する所得税を源泉徴収したうえ、所轄淀橋税務署長に対して自主的に納付していた。

(5)  さらに、右(1)に掲げる金額のうち、破産者の関東総支店が同年一〇月及び一一月の各月に支払った第一表の「関東総支店に対する徴収決定済の分配金支払額」欄記載の分配金支払額については、所轄淀橋税務署長が既にこれに対する源泉徴収所得税の徴収決定をしていた。

(6)  なお、右に(1)に掲げる金額のうち、破産者の山口、八王子、甲府、飯田、碧南、岡崎、京都及び大津の各支店を含む六三支店、一出張所が、同年八月から一一月までの各月に支払った第一表の「各支店納付済及び各支店に対する徴収決定済の分配金支払額」欄記載の分配金支払額については、右各支店又は出張所が、既にこれに対する所得税を源泉徴収したうえ、それぞれの所轄各税務署長に対して自主的に納付し、又は所轄各税務署長が既にこれに対する源泉徴収所得税の徴収決定をしていた。

そこで、被控訴人署長は、昭和三〇年六月三〇日本件賦課処分をするに当り、前記(1)に掲げる分配金支払総額から(2)ないし(6)の分配金支払額を差引いた第一表の「差引残額」欄記載の分配金支払額―原判決の事実第二の二、(一)、(1)(原判決第三枚目裏終り第四行目から第四枚目表第三行目まで)に掲げる「支給金」欄記載の分配金支払額―を課税の対象とし、源泉徴収所得税合計額四、一七九、〇〇七円及び同加算税合計額一、〇四四、〇〇〇円の徴収決定をし、同年七月一日その旨を控訴人に通知し、本件賦課処分をしたものである。

ところが、右本件賦課処分の後にいたり、前記(5)の破産者の関東総支店に対して所轄淀橋税務署長がした徴収決定及び前記(6)のうち破産者の山口、八王子、甲府、飯田、碧南、岡崎、京都及び大津の八支店に対し所轄各税務署長がした徴収決定については、当時右各店が閉鎖されていたため、その決定の納税告知書が送達されなかったことが判明した(このうち、岡崎及び京都両支店に対する徴収決定にかかる滞納税額については、所轄各税務署長からその滞納処分手続の引継を受けた東京国税局長において破産管財人である控訴人に対し交付要求を行い、これを不服とする控訴人からその取消を求める訴え(東京地方裁判所昭和三二年(行)第七一号事件)が提起されたが、右のごとくその納税告知書の送達がなされていないことが判明したので、東京国税局長は右交付要求を取消し、被控訴人も右訴えを取下げた。)。そこで、控訴人の所轄税務署長である被控訴人は、改めて、右納税告知書が不送達となった他の税務署長の徴収決定にかかる分配金支払額である。本判決添付別紙第二表の「分配金支払額」檀記載の分配金支払額―原判決の事実第三の三、(三)(原判決第一九枚目裏第二行目から第四行目まで)に掲げる「配当金支払額」欄記載の分配金支払額―を課税の対象とし、昭和三三年九月三〇日源泉徴収所得税合計額五八七、七七一円及び同加算税合計額一四六、七五〇円の徴収決定をし、同年一〇月二日その旨を控訴人に通知した。これが別件賦課処分である。

従って、別件賦課処分は、本件賦課処分の対象とならなかった分配金支払額を課税物件とするものであるから、本件賦課処分と同一の課税物件に対して二重になされた課税処分であるということはできない。

そして、控訴人は、別件賦課処分は、被控訴人署長以外の他の税務署長がした賦課処分との関係において二重の賦課処分になると主張するけれども、右に述べたように、別件賦課処分の対象たる分配金支払額について他の税務署長がした徴収決定は、いずれもその納税告知書が不送達に帰し、その効力を生じなかったのであるから、その間に二重課税の問題を生ずる余地もないものといわなければならない。

三、被控訴人署長は、破産者がその出資者に対して支払った利益の分配金は前記昭和二八年法律第一七三号による改正後の所得税法第四二条第三項所定の源泉徴収の対象となるものと認めたので、その調査に着手したが、その後破産者に対する破産宣告があり、控訴人が破産管財人に選任されるに至ったので、昭和三〇年四月頃係員を控訴人のもとに派遣し、調査に当らせた結果、前記のとおり、右分配金の支払総額を確認することができたのである。そして、右のごとく確認した分配金支払総額から別件賦課処分の対象たる分配金支払額を算出確定した根拠も上記のとおりであって、その根拠が不明であるということはない。破産者が税務調査に応じなかったため、分配金の支払を受けた出資者ごとにその支払額を特定することまではできなかったが、分配金の受取人及びその金額が、分配金支払の都度明確にされなくても、このため源泉徴収所得税の賦課が不可能となるものではなく、分配金支払総額が確認され、これから順次導き出される金額が確定していれば、これに対して源泉徴収所得税を賦課することは可能であり、賦課処分の要件は充足されるものというべきであるから、別件賦課処分は無効でないことは明らかというべきである。

当事者双方の立証及び認否は、次に記載する外は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴人は、立証として、新たに甲第三三号証ないし同第三五号証を提出し、当審証人武石栄一の証言を援用し、乙第一三、一四号証の各一、二、同第一五号証の一ないし八、同第一六号証、同第一七号証の八ないし三九及び同号証の四二ないし六五の各成立は認める、乙第一七号証の一ないし七及び同号証の四〇、四一の各成立は知らないと述べた。

被控訴人指定代理人らは、立証として、新たに乙第一三、一四号証の各一、二、同第一五号証の一ないし八、同第一六号証及び同第一七号証の一ないし六五を提出し、当審証人山本茂、同渡辺道輝(第一、二回)、同桐原文雄及び同中原敏夫の各証言を援用し、甲第三三号証ない同第三五号証の各成立を認めた。

理由

訴外坂本又一が、昭和二七年六月頃から東京都中央区越前堀三丁目五番地で日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎の名称で不特定多数人から資金を受け入れて事業を経営し、又はこれを他に投資していたものであるところ、昭和二八年一〇月下旬支払を停止し、翌二九年九月二八日東京地方裁判所で破産を宣告せられ、控訴人がその破産管財人に選任されたこと、被控訴人署長が昭和三三年九月三〇日控訴人に対して、破産者日本白十字経済会理事長坂本郁二郎又は坂本又一郎こと坂本又一が受入資金に対して支払った匿名組合契約等に基づく利益の分配金に対する源泉徴収所得税額金五八七、七七一円及び同加算税額金一四六、七五〇円を賦課する旨の決定をし、その旨同年一〇月二日控訴人に通知し、別件賦課処分をしたことは、当事者の間に争いがなく、成立に争いのない乙第一三、一四号証の各一、二に当審証人桐原文雄の証言を併せ考えると、右の別件賦課処分は、被控訴人署長において、破産者が昭和二八年九月から同年一一月までの各月に出資者に対する利益分配金として左記「分配金支払額」欄掲記の金額を支払ったものであって、この支払額は昭和二八年法律第一七三号による改正後の所得税法第一条第二項第三号にいわゆる匿名組合契約等に基づく利益の分配金に該当し、破産者はこれに対し同法第四二条第三項の規定により左記「本税額」欄及び「加算税額」欄掲記の各源泉徴収所得税及び同加算税の納付義務を負担するものとして、したものであることを認めるに十分である。

支払確定日 分配金支払額 本税額 加算税額

昭和二八年九月 一五、八〇〇円 三、一六〇円 七五〇円

同 年一〇月 二、〇二七、九二八円 四〇五、五三〇円 一〇一、二五〇円

同 年一一月 八九六、四六九円 一七九、〇八一円 四四、七五〇円

合計 二、九四〇、一九七円 五八七、七七一円 一四六、七五〇円

控訴人は、別件賦課処分は当然無効であると主張するから、以下この点について判断する。

まず、控訴人は、別件賦課処分は所得税法の上記規定に該当しない支払金に対して右規定を適用したものであって違法であり、しかもその違法は重大かつ明白であると主張するところ、当裁判所は右処分は違法であるが、その違法は処分を当然に無効たらしめるほど明白なものであるとすることはできないものと判断するものであって、その理由は原判決の理由に掲げるところと同一であるから、原判決の右該当部分〔原判決理由三の(一)前段(原判決第四〇枚目裏第一行目から第四一枚目裏六行目まで)及び右に引用する同二の(二)及び(三)(原判決第三〇枚目裏第五行目から第四〇枚目表第二行目まで)〕を引用する。当審に提出、援用された証拠によっても、右認定を左右するに足りない。

次に、控訴人は、別件賦課処分は、賦課対象たる配当金支払額の算定の根拠が不明であるばかりでなく、被控訴人署長がした本件賦課処分又は被控訴人署長以外の他の税務署長がした賦課処分の課税物件と同一の課税物件を対象とするものであるから、二重になされた賦課処分である旨を主張するところ、被控訴人署長が、別件賦課処分をするより以前である昭和三〇年六月三〇日控訴人に対して、破産者が匿名組合契約等に基づく出資者に対する利益の分配金として昭和二八年八月から同年一二月までの各月に左記「分配金支払額」欄掲記の金額を支払ったものとして、これに対し左記「本税額」欄及び「加算税額」欄掲記の各源泉徴収所得税及び同加算税を徴収する旨の決定をし、その旨同年七月一日控訴人に通知し、本件賦課処分をしたことは、当事者の間に争いがない。

支払確定月 分配金支払額 本税額 加算税額

昭和二八年八月 一、七五四、六五四円 三五〇、九三〇円 八七、五〇〇円

同 年九月 二、〇八〇、八七〇円 四一六、一七四円 一〇四、〇〇〇円

同 年一〇月 八、九四八、八三〇円 一、七八九、七六六円 四四七、五二〇円

同 年一一月 八、〇七六、二五五円 一、六一五、二五一円 四〇三、七五〇円

同 年一二月 三四、四三三円 六、八八六円 一、五〇〇円

合計 四、一七九、〇〇七円 一、〇四四、〇〇〇円

しかしながら、他方、いずれも成立に争いのない甲第三三号証、乙第一三、一四号証の各一、二、同第一五号証の一ないし八、同第一六号証、同第一七号証の八ないし三九及び同号証の四二ないし六五、当審証人渡辺道輝の証言(第二回)によって真正に成立したものと認める乙第一七号証の一ないし四、同号証の六、七及び同号証の四〇、四一、文書の方式及び趣旨に照し真正に成立したものと認める乙第一七号証の五並びに当審証人山本茂、同渡辺道輝(第一、二回、)。同桐原文雄及び同中原敏夫の各証言に本件口頭弁論の全趣旨を併せ考えると、次の事実を認めることができる。すなわち、

被控訴人署長は、破産者が出資者に支払った利益の分配金は昭和二八年法律第一七三号による改正後の所得税法第一条第二項第三号、第四二条第三項の規定により源泉徴収所得税の課税の対象となるものと認めたので、昭和四〇年四、五月頃係官を破産管財人の事務所に派遣して調査させたところ、(一)破産者の全国各店(本店、総支店及び支店)が昭和二八年八月から同年一二月までの各月に出資者に対して支払った分配金の総額は本判決添付別紙第一表の「分配金支払総額」欄掲記の金額であり、また、(二)、右分配金支払総額の昭和二八年八月分のうち、同月一日から匿名組合契約等に基づく利益の分配に対して源泉徴収所得税を課する旨の規定を新設した前記昭和二八年法律第一七三号「所得税法の一部を改正する法律」が施行された日の前日である同月六日までの間に破産者の全国各店が出資者に支払った分配金の額は、右第一表の「法律施行前の分配金支払額」欄掲記の金額であることが判明した。そして、右(一)の分配金支払総額のうちには、なお、(三)、破産者の本店が昭和二八年八月から同年一〇月までの各月に出資者に支払った分配金支払額であって、同店においてその所得税を源泉徴収したうえ、同年八月三一日から同年一一月三日までの間に、既に、所轄の被控訴人署長に対して申告納付したものがあり、その分配金支払額は第一表の「本店納付済の分配金支払額」欄掲記の金額であった。また、一方において被控訴人署長が破産者の全国各店を管轄する各税務署につき調査した結果によると、右(一)の分配金支払額のうちには、(四)、第一表の「関東総支店納付済の分配金支払額」欄掲記のとおり、破産者の関東総支店が同年八月及び九月の各月に出資者に支払った分配金支払額で、同店においてその所得税を源泉徴収したうえ、同年九月九日から同年一〇月九日までの間に、既に、所轄淀橋税務署長に対して申告納付した金額、(五)、第一表の「関東総支店に対する徴収決定済の分配金支払額」欄掲記のとおり、破産者の関東総支店が同年一〇月及び一一月の各月に出資者に支払った分配金支払額で、所轄淀橋税務署長が昭和二九年二月二二日既にこれに対する源泉徴収所得税及び同加算税の徴収決定をした金額、並びに、(六)、第一表の「各支店納付済及び各支店に対する徴収決定済の分配金支払額」欄掲記のとおり、破産者の山口、八王子、甲府、飯田、碧南、岡崎、京都及び大津の八支店を含む六三支店、一出張所が同年八月から一一月までの各月に出資者に支払った分配金で、当該各店がそれぞれこれに対する所得税を源泉徴収したうえ、同年九月から一一月までの間に、既に、所轄各税務署長に対して申告納付した金額及び各所轄税務署長が同年一一月から昭和二九年三月までの間に、既に、これに対する源泉徴収所得税及び同加算税の徴収決定した金額があることが、それぞれ判明した。そこで被控訴人署長は、破産者が昭和二八年八月から同年一二月までの各月に出資者に支払った分配金支払額について源泉徴収所得税及び同加算税の徴収決定をするにあたり、右(一)の分配金支払総額から(二)の法律施行前の分配金支払額並びに(三)ないし(六)の破産者の各店の源泉徴収所得税納付済及び各店に対する各所轄税務署長の同税徴収決定済にかかる分配金支払額を差引いた残額である第一表の「差引残額」欄掲記の金額を課税の対象として、前記のとおり、本件賦課処分をした。

ところが、その後東京国税局長の調査の結果によると、右(五)の破産者の関東総支店が出資者に支払った分配金支払額に対して所轄淀橋税務署長がした源泉徴収所得税等の徴収決定及び右(六)の破産者の各支店が出資者に支払った分配金支払額に対して各所轄税務署長がした源泉徴収所得税等の徴収決定のうちに、山口、八王子、甲府、飯田、碧南、岡崎、京都及び大津の八支店が本判決添付の別紙第二表の「分配金支払年月」欄掲記の各月に出資者に支払った同表「分配金支払額」欄掲記の各分配金支払額に対して同表「所轄税務署」欄掲記の各税務署長が同表「徴収決定年月日」欄掲記の各日時にした源泉徴収所得税等の徴収決定については、当時破産者の右各店が閉鎖されたため、その納税告知書がいずれも不送達に終ったことが判明した。そこで、被控訴人署長が、破産者の破産管財人である控訴人の所轄税務署長として、右納税告知書が不送達となった他の税務署長の徴収決定にかかる分配金支払額を課税の対象として、前記のとおり、その源泉徴収所得税等の徴収決定をし納税告知書を送達して別件賦課処分をし、他の各税務署長は、納税告知書が不送達となった徴収決定について、それぞれ、別件賦課処分前に、その処分を取消した。

従って、別件賦課処分は、本件賦課処分がその課税の対象から除外した前記破産者の各店の分配金支払額をその対象としてなされたものであるから、本件賦課処分と同一の課税物件に対する二重の賦課処分となるものではなく、また、その課税の対象たる破産者の前記各店の分配金支払額に対して他の税務署長がなした各徴収決定は、各決定にかかる納税告知書がいずれも相手方に送達されるに至らなかったのであるから、いずれもその効力を生じなかったものであり、しかも、右各徴収決定は、前示のごとく、それぞれ各処分庁によって別件賦課処分前に取消されたのであるから、別件賦課処分は、被控訴人署長以外の他の各税務署長がした右各徴収決定との関係においても、二重の賦課処分となることはない。そして、別件賦課処分の対象となった前記破産者の各店の分配金支払額は、右のごとく、各所轄税務署長が各徴収決定をするに際して、調査確認したものと認められ被控訴人署長が右各税務署につき調査した結果これを把握確定したものであるから、その算定の合理的根拠を疑わしめるに足りるような特段の事情の存することを認め得ない本件にあっては、その算定の根拠が薄弱であって不明であるということはできないものと認めるのを相当とするばかりでなく、源泉徴収所得税の徴収決定をするにあたっては、その性質上、課税の対象となる給付の支払を受ける者ごとに、その都度、支払金額、日時等を区分し特定することがその要件をなすものと解することはできず、これらは課税対象たる支払額の証明方法の一部に過ぎないものというべきであるから、その算定の根拠が不明であるとする控訴人の主張も採ることができない。もっとも、いずれも成立に争いのない甲第三三号証及び乙第一五号証の七に当審証人中原敏夫の証言を併せ考えると、前記破産者の各店が支払った分配金支払額のうち、京都支店が昭和二八年一〇月に支払った分配金支払額で、下京税務署長が昭和二九年二月二四日これに対する徴収決定をした金額四五三、四五六円については、昭和三九年九月三〇日にいたり東京国税局長からその納税義務につき消滅時効が完成した旨の通知書が発せられている事実を認めることができるけれども、右通知書は過誤によって作成発送されたものであることも、右証人中原敏夫の証言によってこれをを認めるに十分であるから、右事実も上記認定の妨げとはならない。

してみれば、控訴人の別件賦課処分は無効であるとする主張は、いずれも理由がないものというほかはなく、その無効確認を求める請求は失当といわなければならない。

さらに、控訴人は、別件賦課処分の取消を求めるところ、当裁判所は、右請求にかかる訴えは不適法として却下すべきものと判断するものであって、その理由は原判決の理由に掲げるところと同一であるから、原判決の右該当部分〔原判決理由三の(二)(原判決第四二枚目裏第一行目から第四三枚目裏第八行目まで)〕を引用する。

以上の次第で、右と同趣旨で控訴人の訴えを一部却下し、その余の部分につき請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 伊藤顕信 判事 江尻美雄一 判事 園田治)

第一表

<省略>

第二表

<省略>

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